無鄰菴の字体について

参考:「無」「隣」「庵」の字体の例

参考:「無」「隣」「庵」の字体の例

 現在では、一つの漢字には一つの字体しかないのが普通ですが、かつては、一つの漢字に多くの字体がありました。近代になって、常用漢字表(もしくは当用漢字表)によって基本となる字体が定められると、官公庁では、基本的に常用字体を使うようになりました。

 しかし、人名や地名などの固有名詞については、その字体に意味があることもあるため、現在でも多くの字体が使われています。例えば、「斎藤」さんの「斎」の字は、「さい」あるいは「いつき」という読みで、幾つもの字体が登録されているのは、よく目にされるのではないでしょうか。

 「無」「隣」「庵」の字もかつては幾つもの字体が使われていました。現在も「無隣庵」ではなく、「無鄰菴」と記すことが多いのは、山縣有朋の字になる扁額「無鄰菴」にあわせて表示しているためです。

 ただし、有朋も、必ず「無鄰菴」の字を使っていたわけではなく、自身の手紙などでも、「隣」と「鄰」、「庵」と「菴」の字を混用しています。

 また、文化財庭園としての名称を表示する場合、名勝に指定された際、官報に記載された「無鄰庵」を使うことがあります。文化財ならば必ず官報の字体に従うということではなく、常用字体に改めている例が多いのですが、山縣有朋が営んだ無鄰菴は3つあるため、南禅寺のたもとにある、文化財(名勝)に指定された無鄰菴であることがわかるように、「無鄰庵」を使う場合もしばしば見受けられます。

 

 以上をもう一度まとめますと、無鄰菴には、以下のような三つの表記方法があるということになります。

(1)  「無鄰菴」:母屋の扁額にある字体で、現在、京都市はこの字体を使用しています。

(2)  「無鄰庵」:昭和26年6月9日の国の名勝指定時に使用された字体です。

(3)  「無隣庵」:常用字体で記した字体で、昔の新聞記事もこの字体を使用しています。

 したがって、どれが間違いというわけではなく、すべて正しいわけですが、弊社のウェブサイトでは、京都市の表記にならって、(1)の「無鄰菴」を使用することにしています。