こんにちは!
無鄰菴の施主、山縣有朋はこんな言葉を残しています。
「苔(コケ)によっては面白くないから、私は断じて芝を栽る」
有朋公はコケを好みませんでした。かわりに無鄰菴の庭の特徴のひとつ「明るい芝生の空間」を作りました。無鄰菴が完成した当初、コケは茶室の周りだけだった、という研究(*)があります。京都は年間を通して湿度が高く、コケが好む気候です。次第に無鄰菴のお庭にも苔が生えはじめました。すると有朋公は、コケを嫌うのではなく「コケもいいなあ(「コケの青みたる中に、名も知らぬ草の花の咲き出でたるもめずらし」)」と、自然の変化を柔軟に受け入れました。無鄰菴では、今日、わかっているだけでも約50種類のコケの自生を確認しています。(文:濱坂都)
クサボケ
無鄰菴の企画担当、濱坂都です。
「季節のお手入れ日記」では、月に一度行っているお庭の手入れ内容を中心に、名勝庭園としての育成管理についてお伝えしています。
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☆足元に広がる世界☆
今日のお手入れは、春の訪れに向けて生え変わる常緑樹の落ち葉拾いと、園路の中ほど、もみじ林あたり一面に広がるコケのお手入れです。無鄰菴担当庭師・出口健太の指導のもとに行います。
午前7時
まず、お客様をお迎えする準備をおこないます。玄関まわりのお手入れから始めますが、2月と比べ、落ち葉が多い印象です。玄関にはクロガネモチの大木があります。これらの落ち葉を手ぼうきで除去します。
午前8時
午前のお手入れは、洋館前に広がるハランの周辺の落ち葉をひろうこと。
落ち葉をひろいつつ、モミジの実生(みしょう)を除去します。
モミジの種があちらこちらに落ちています。
ハランの株元に、花を発見。
3~5月が開花シーズン。
ニクウスバタケ(サルノコシカケ科)発見 森の中に迷い込んだよう。
キノコ発見 これは、間髪入れずに除去。
こちらが、午前の成果。
午後1時
お昼休みをはさんで、午後は念願のコケのお手入れです。自然に発生した無鄰菴のコケの森は、気候の変化に正直に反応し成長しています。日当たりによって、地続きであっても異なる、つまり、そのポイントに「最適な」コケがはえます。群生する場所が変化することもあります。数日後、数か月後、数年後、どんな姿に変化しているだろうか、どんな姿であってほしいかを想像し、お手入れを行います。これには担当庭師のアドバイスが必要です。
現在の日陰エリアの様子。
「スギゴケの中に生えるハイゴケをぬいてください」
劣勢のスギゴケは、樹木の足元に控えめに、枝の影の範囲で育ちます。一方、優勢のハイゴケは、地面を自由に動き面展開します。そして今、まさに控えめに生きているスギゴケのエリアをハイゴケが侵食しようとしています。これを防ぎ、スギゴケを守るのがお手入れの目的です。
ハイゴケとスギゴケの際を注意深く眺めると、わずかにスギゴケの頭が見えます。これをたよりにハイゴケを除去すると、下から小さなスギゴケが顔をだします。
ハイゴケを抜く前。
ハイゴケを抜いた後、スギゴケが姿を現します。
「誰がお手入れしたか、すぐにわかりました」
とは、無鄰菴スタッフ。
次回、コケのお手入れをさせていただく機会があれば、もっと仕上がりを意識します。
モミジの実生を抜く前。
モミジの実生を抜いた後。
お庭の足元を愉しむのは、春の3~5月がベストシーズンです。
みなさんも、ぜひ、無鄰菴へお越しください!
午後の成果。
次のお手入れ日記をお楽しみに!
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オマケ。大きなスギの花を見つけました。立派な花粉を放っていました。
中腰と前かがみの姿勢は腰や腕への負担が大きく、長時間この姿勢を保つことは至難の業です。お手入れ実習を継続する中で、翌日の筋肉痛がなくなる日が来るとすれば、少しはお手本(写真下)に近づけたことになるかなと思っています。
お手本
(参考文献)
*小杉忠広(2011年度)『芝から苔への遷移が創る空間美』京都造形芸術大学大学院芸術研究科修士論文
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