無鄰菴の野趣あふれた景色はまるで自然のそのもので、全く手を入れていないかのように見えますが、実は日々の手入れに支えられています。その中で特に景観の要になっているのは毎日早朝に行われる掃除です。
庭掃除とは、主に落ち葉や雑草などを取り除く作業です。無鄰菴では、8時まで手帚で掃除を進め、8時から9時までブロアーで落ち葉などを集める開園前の作業と、手帚や手作業で掃除を仕上げる開園後の作業に分かれています。そうすることで、庭園は常に来園者にとって心地よい景観が保たれています。ここには庭師の来園者への配慮が感じられますが、近隣への配慮も必要です。「朝の掃除は、ブロワーで落ち葉を集めるところから始まります」と担当庭師の出口健太さん。「ブロアーをあまり朝早くやると近所の迷惑になるので、開園の1時間前、午前8時過ぎにやります」。
なるほど。「隣の無い庵」という意味を持つ無鄰菴ですが、その手入れには「隣」への配慮が欠かせないのです。庭掃除は、こうした周囲への気遣いから始まります。無鄰菴は大掃除を終えて開園を迎えます。
開園後に手作業による掃除が始まります。開園前のブロアー掃除と違い、開園後の細かい作業は限られた時間の中で、優先的・重点的に進められます。重要なポイントはどこまで庭をきれいにするのかです。「順番というか、優先順位をつけて目立つところ、母屋、園路、そういうところを重点的に掃除していきます。余裕があれば、目立たないエリアもやり、なるべく短時間で綺麗に仕上げていく」と出口さんはいいます。
とはいえ、朝の掃除は単なる機械的な作業ではなく、庭にどんな手入れが必要かを気づかせてくれる時間でもあります。出口さんはこう説明します。「落ち葉を掃くのはもちろんですが、庭には雑草なども生えているので、目につく草は引き、目立つ低木の枝は剪定します。」
そう説明する出口さんは、手みと箒をひたすらに動かしながら掃除を進め続けます。伸びすぎた枝に気づけば剪定し、すぐに掃除に戻ります。また、コケの種類が重なっている場所があるところを見て、そのバランスを手で調整します。このように、掃除と剪定・手作業はずっと交互に行われていきます。
その流れをいったん写真で表してみましょう。
要するに、庭師の「気づき」は庭に対する「気遣い」でもあります。庭師が毎日行う「掃除」はただ庭をきれいにするという行為ではなく、その庭にしかない個性を発揮させるための愛情なのです。そう考えると庭師が庭を掃除している姿により深い味わいがでそうですね。無鄰菴にお越しの際は、その景色を担っている庭師の姿に是非注目してみて下さい。
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