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春を迎えるお手入れ

 無鄰菴の庭園にはウメやサクラといった華やかな花木はなく、野山に生えている樹種がほとんど。春の訪れを知らせる花や芽吹きも、まるで自然の中にいるかのように感じられます。年が明け、日が長くなるにつれて、庭園は少しずつ春に向かって動き始めます。本格的な春を迎える前に、庭園で行われるお手入れをいくつかご紹介します。

 担当庭師、出口さんからまず挙がったのは芝生の中に生えている野花の管理。無鄰菴では、施主・山縣有朋が庭に咲いた「名も知らぬ花」を愛でた記録が残ること、野辺のような景色が意図されていることから、訪れるお客様にさりげなく咲く野花を楽しんでいただけるようにお手入れをしています。

芝生の中に咲くヒメスミレ

出口 ただ放っておくと、芝地の中には芝よりもずっと背が高く成長する草が繁茂してしまいます。そのため、本格的な春を迎える前、まだ小さいうちに手引き除草を行います。芝生は茶色く枯れているなか、春先には雑草が先に成長しはじめるので、ネジバナやスミレといった鑑賞価値の高いものは残しながら、チチコグサなどは抜いてしまいます。暖かくなると一気に草が育ちますが、芝生がわざとらしく手を入れた姿にならないように、早春のうちに除草をしています。また、スギゴケの中まで繁茂したハイゴケを除去する作業など、苔のお手入れもこの時期に集中して行います。

枯れた芝の中で育つ雑草
苔のお手入れ

 春が来る前、まだ寒さが残る時期は針葉樹のお手入れの適期。スギ、モミ、ヒノキ、コウヨウザン、ヒムロスギ等はこの時期に剪定を行います。逆に、常緑広葉樹の剪定には適さない時期なので、剪定は控えます。

剪定を終えてすっきりとした姿のコウヨウザン

出口 昔は遅霜の影響でコケが浮くなどの被害もありましたが、今年は霜が降りることもほとんどありませんでした。温暖化の影響で、庭の植物の生長にも影響が出ているように感じられます。

早春の見どころについても、出口さんに聞いてみました。

出口 母屋から滝へ向かう途中の林では、早春からアセビやヤブツバキが咲きます。色鮮やかなクチナシの実も見どころのひとつ。それと、この時期は苔が一番美しい時期です。新芽が出ているので緑が特に鮮やかです。もう少し暖かくなったら、ミツバツツジやモチツツジも咲いてきます。

アセビが咲く、滝へと続く園路。2月下旬の様子
苔に落ちた花も美しいヤブツバキ
色鮮やかな苔の新芽

 暖かな春が訪れる少し前に、庭では春を迎えるお手入れが行われています。庭の生命が動き出す季節だからこそのお手入れ、春以降にもその効果に着目してみてくださいね。

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