無鄰菴の南側にある通り道。何度も無鄰菴を訪れている人にとっては、あまりに見慣れすぎているため、その風景をじっくり観察することはないかもしれません。しかし、そこには庭師の視点から無鄰菴を見るチャンスが潜んでいます。なぜなら、無鄰菴の管理は公道と庭園の境界から始まるからです。一見、何の問題もないように見える無鄰菴の日常的な風景ですが、経験を積んだ庭師であれば、取り組むべき課題が見えてきます。
それは、何でしょうか。よく見ると、無鄰菴の外壁から木の枝が越境しています。
枝がわずかに壁の上を超えている程度とはいえ、これがまだ行きすぎない今のうちに手を打たなければなりません。
この場合、樹木を切りすぎないことが一番のコツになります。「中から見た景色を薄くしすぎてしまうと外側の景色が透けて見えてしまうし、高さを下げても周りの建物が見えてしまいますので、今回は枝は抜かずに外側だけ縮めることにする」と無鄰菴の担当庭師である出口健太は説明します。
また、これは毎年決まった時期に行う定例的な剪定作業ではなく、ある意味本来剪定すべき季節に逆らって実施する臨時剪定であることを考がえると、切りすぎないように気を付けることです。「剪定するなら3月ぐらいが一番いいです。今は樹木にとって休眠期ですので、あまり強い剪定すると、傷んで枯れてしまいます。軽く剪定するのは問題ありませんが、きつく切る場合は芽吹く前の2月後半から3月にかけてが最適」だそうです。
作業自体はそれほど難しいものではありませんし、比較的短い時間で完了します。以下の写真から分かる通り、壁に上って枝を切り、また降りて全体の見た目を確認することの繰り返しです。
切り口が目立たない剪定後の枝は、何年も経験を積んできた庭師ならではの確かな技術を物語ります。
作業が進むにつれ、公道に枝がどどんどんたまっていきます。庭園外ですので、車や歩行者ももちろん通ります。片付けも速やかに進めることが必要です。
これらの枝を庭師の出口は丁寧かつコンパクトに束ねます。「今は剪定ごみを収集するためのパッカー車に切ったままの枝を詰めるのは一般的ですが、昔はどこでもこのように束ねていたと思う」と彼は説明します。
枝がばらばらな状態で処分するよりも、ひと手間増えますがきちんと方向をそろえて片付けた方が、軽トラに載せるだけで済みますので、結果的に一人の庭師が運べる量がその分増えるとのこと。
剪定作業がすべて終わった後は、外側の景色がこのようにすっきりしました。
壁に対する樹木の圧迫感がなくなっているのは分かりますでしょうか。
ビフォーアフターではっきり分かるような違いではないかもしれませんが、だからこそ庭師の鋭い観察力を如実に示してくれる変化なのです。無鄰菴にご来場される際には、ぜひ外側から見た無鄰菴の景色に庭師の視点から注目してみてください。
登録する
お出かけに役立つお庭の最新情報、イベント情報、庭師のコラムなど、お届け!特別イベントにもご招待。