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アラカシの剪定

5月は新緑が美しい季節です。
無鄰菴もまた、柔らかく枝を伸ばした若々しい青紅葉の緑が映える時期を迎えています。
しかしそれは、裏を返せば植物が勢いよく繁茂しはじめていることの証でもあります。

茂りすぎた植栽は、順次剪定をおこなっていかなければなりません。
この日のお手入れはアラカシの剪定でした。

出口
春を迎えて枝葉が濃くなりすぎた植栽は、母屋近くなど目立つ部分から順番に剪定を進めています。
このアラカシも、人の手が入ったわざとらしさが出ないように、しかし樹木の向こうがうっすら見えるように、透かし剪定を行っていきます。
赤丸が手入れ予定のアラカシ、黄丸が先に剪定を終えた低木。
アラカシは常緑樹なんですね。
落葉樹か常緑樹かで、剪定の時期や頻度は変わったりするんでしょうか?
出口
落葉か常緑かで変わる部分もありますが、その年の気候やその木の個性なども大きく影響しますね。
庭園全体でバランスを取ることが大事なので、同じ種類の木であっても、こちらの木は爆発的に伸びるので年に何度も剪定するけれど、あちらの木は生育がゆっくりなので剪定頻度を抑える、ということもあります。

時期についても、この季節にはこの作業、という大まかな目安はありますが、では今年はいつその作業をすべきかという実際の計画は、お庭の様子を観察しながら決める必要があります。
今年は、例年に比べ成長が早いので剪定時期は早めですね。
取材当時、庭園側から母屋を望んだ様子
では、庭園全体の樹木はすべて同じような濃さになるように剪定するのですか?
出口
いいえ、それもその樹木の役割や特性などによって変えています。
例えば、外周木は周辺の目隠しも兼ねていることから、あまり薄くしてしまうのはよくありません。
周辺の建物を隠すため、枝葉を落としすぎないよう、かといって塀の外に飛び出して通行を妨げないように整える必要があります。

また、モミジはさらさらと横に流れるように広がる枝が魅力の樹木です。
もちろん樹形を整えるために剪定することもないわけではないのですが、下手な切り詰めかたをしてしまうと、その場所から枝が暴れて形がおさまらなくなることもあります。
ですので、モミジの剪定は他の樹木と異なり控えめに、基本的には枯れ枝を落とす程度に抑えたほうがよいと考えています。
外周木と、緑のトンネルをつくる母屋脇の青紅葉
なるほど、いろんな条件を考慮して作業を組み立てる必要ががあるんですね。
では、アラカシはどんなふうに剪定するのですか?
出口
基本的には、広げた手のひらのように、主となる枝とそれにつながる枝がすべて平行になるように整えます。手のひらに対する曲げた指のように、異なる角度で伸びている枝は落とします。
それはなぜですか?
出口
そういった枝は、成長すると上下の枝と干渉してしまうためです。
幹を中心に、広げた手のひらがいくつも重なっているような形に整えていけば、茂り具合の濃淡ムラもなく、その木らしい形におさまっていきます。
立枝(真上に伸びる枝)の例
切り口をみると、あえて付け根からではなく少しでっぱりを残して切っているようですが
出口
あまりにきわで切ってしまうと、切り口から近い枝や葉が枯れてしまうためです。
かといって、残しすぎるのもよくないですね。付け根からわずかに残して切るのが理想です。
樹木にも自然治癒力があるので、正しい位置で剪定すれば、樹皮が切り口を巻き込んで傷口をふさいでくれるんです。
では、角度がそろっている枝を切ることはない?
出口
それも場合によりますね。
例えば、この枝は手のひらの形はきれいですが園路に飛び出してしまっているため、通行の妨げになっています。
だからといってばっさり切ってしまうと樹形が不自然になるので、こういうときは枝先のほうだけ切ることもあります。その場合も、残しすぎ、切りすぎには注意します。
園路に飛び出した枝。

全体が整ったあと、剪定前と見比べると圧迫感がなくなり、春らしく軽やかな雰囲気に変化したことがわかります。

暑さもまだ遠く、庭園も華やぐ季節です。
新緑の無鄰菴で、皆様のご来場をお待ちしております。

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