無鄰菴のクスノキといえば、すぐに母屋の南側に立っているこの樹木を思い浮かべる来場者は多いでしょう。庭園の造営前からここにあったと伝えられるこのクスノキは、母屋と流れに挟まれて、印象的な景色になっているからです。

しかし、無鄰菴にはクスノキがもう一本あることを、ご存知でしょうか。比較的目立たない洋館のそばに、ひっそりと立っているこの樹木です。今回の記事では、このクスノキの剪定についてお伝えします。

普段はさほど注目しない来場者の方も多くいらっしゃるかもしれませんが、無鄰菴の担当庭師である出口健太にとっては、ここ数年、特に力を注いでいる樹木だそうです。「当初はかなり巨大で、枝でも落ちたら危ない状態だったが、3年かけて、高さを下げて、安全なサイズに落ち着いた感じになってきている」と出口さんは説明します。また、「春に向けてクスノキが葉っぱを入れ替える時期なので、葉っぱが落ちる前に剪定し、サイズダウンすることでより明るくしたい」とも。
フォスタリング・レポートでこの樹木を取り上げるのは、今回で2回目です。6年前にこの樹木の剪定を取材した際の写真を見てみると、文字通りの「巨木」だったことがよく分かります。
過去と現在の樹形を比較すると、庭園の景観を構成する一本の木を手入れするのにどれほどの労力が費やされているかが実感できますね。しかし、この「労力」とは、具体的にどのようなものでしょうか。この問いを庭師の視点から理解するために、剪定の過程を写真でたどってみましょう。
高木の剪定を取材すると、まず気づかされるのは、とにかくその作業が進められるスピード感です。このクスノキの場合、今回の剪定作業は40分未満ですべてが完了しました。
10:27。主要な枝が二又に分かれたあたりで剪定作業が始まってから7分経過しました。剪定された枝が地面に大分溜まりましたが、樹形にはそれほどの変化はまだ現れていません。
しかし、ここからは展開が早いです。30分も経たないうちに、クスノキの姿がみるみる変わっていきます。この変化ぶりを写真で辿ってみましょう。
また、一分も経たないうちに、この変化も。
最後に、樹冠の剪定をみてみましょう。
ここも10分も経たないうちに、ガラッと様子が一変します。
最後は母屋から全体の仕上がりを確認し、剪定作業は終わります。
これによって、剪定作業が庭師の視点からどのように見えるのか、ある程度は想像がつくかもしれません。しかし、写真を見ただけでは、たった一人の庭師が、これほど短期間で木全体を剪定するのにどれほどの精神的な労力を要するかは、想像が及ばないでしょう。高木の剪定は、失敗や大ケガがあり得る作業ですので、時間と体力の限界と勝負しながら仕事をしなかればなりません。
このように、庭園の安全性と景観を損なわない形で景色が一新され、このエリアに新たな明るさと開放感がもたらされました。
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ところで、今回は一本の樹木の剪定に注目してみましたが、庭園全体を注意してみると、明るい解放感がいつもよりも顕著になっていることに気づきます。これは、毎年春先に外周樹木の剪定が継続的に行われていることによると出口さんはいいます。今回のクスノキの剪定は、より長いスパンで行われる剪定作業の最終段階だったのです。
特に庭園の奥を指さし、「高い杉が三本あるじゃないですか。その右の高木の高さを下げることで、山の稜線がより見えるようになりました。今の庭が一番明るいかもしれません。」と彼はいいます。


なるほど!出口さんが指さす方向を見てみると、確かに山の稜線がいつもよりもくっきり見えているといえそうです。


出口さんがいう通り、3月の無鄰菴の印象は透明度が高く、一番明るいといえるかもしれません。このように、四季折々の庭園の醍醐味は、庭師の手入れと密接に結びついています。
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