無鄰菴をよく訪れる人なら、春から夏にかけて庭に花々が咲き、一斉に彩りを添えてくれることを知っているでしょう。その中でも白いクチナシは、庭園の奥に入ると威厳ある存在感を放ってくれることで知られています。
しかし、威厳は、はかなく過ぎ去るものです。クチナシは咲いては消え、その美しい白はすぐに目立つ黄色に変わります。
また、無鄰菴では、水辺のハナショウブとは異なり、クチナシは来園者の目線に当たる高さで園路沿いに配置されています。そのため、手入れをせずに放置しておくと、庭園管理がほったらかしになっている印象を与えかねません。芝刈りやツツジの刈込など、この時期には他にもやらなければならない作業がたくさんあるにもかかわらず、6月から7月中旬にかけてクチナシの手入れは常に最優先事項になるのはそのためです。実際、無鄰菴の庭師はほぼ毎日この作業に取り組んでいます。
作業は、その日にどの低木を手入れするかを決めることから始まります。例えば、みなさんなら、次の3本のクチナシのどれを先に手入れしますか?
実は、この質問に正解はありません。無鄰菴全体の自然らしさを保つためにどうしたらいいかをしっかり判断することだけが唯一の基準です。今回取材した作業では、1・2番目の低木は後日に対応することになり、3番目の流れ沿いのクチナシを手入れするところから作業が始まりました。
それでは、クチナシの手入れはどのような作業でしょうか?取材日に無鄰菴の庭師が対応した2本の低木を見ながら、そのプロセスを簡単に紹介しましょう。枯れた花を取り除いた後に、低木のもとに溜まった花をきれいに掃除するのが作業の基本です。
一見、作業は簡単に見えるかもしれませんが、大切なのは、黄変した花をすべて取り除くのではなく、自分の判断力をうまく使ってクチナシの自然らしさを保つことです。黄色くなった花は、まだ咲いている花やまだ咲いていない花と混在しているため、摘み過ぎないことも重要です。
それでは、作業が終わった後の仕上げを見ておきましょう。
真っ白なクチナシが咲き乱れるという初夏らしさを象徴する風景も大変魅力的ですが、この控えめな美しさこそが無鄰菴に一番にじんでいるといえるのではないでしょうか。このように、色あせていくクチナシの美しさは、常に変化しながら色あせない無鄰菴全体の景色を支える重要な役割を担っているのです。
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