つくばいは、日本庭園によくみられる添景物の一つです。
元々は神社や寺院などで口や手をすすぎ、身を清めるための水を確保するためのものでしたが、後に茶道にも取り入れられたことで、露地の中に置かれるようになりました。
無鄰菴にも複数のつくばいが設置されており、水は毎朝新しいものに汲み替えていますが、必要なお手入れはそれだけではありません。
今回は、そのつくばいのお手入れについて紹介します。
- 出口さん(以下敬称略)
- つくばいは、そもそもが身を清める水を入れる場所なので、清潔を保つことが大事です。
日々の水の入れ替えだけでなく、繁茂する地衣類など石肌にこびりつく汚れを定期的に掃除する必要があります。
- お掃除は、いつ、どのくらいの頻度で行うのですか?
- 出口
- 特に時期を決めて行う作業ではありませんが、水を触るので、真冬にはしなくてよいよう調整しています。
- また、雨のあまりあたらない縁先手水鉢と、露地に置かれたつくばいとでは自然と汚れ方も異なりますし、掃除の頻度も変わります。ただ、最低でも年に1回は掃除したほうがいいでしょう。
- 出口
- まずは増えすぎた苔をはがして、つくばいの輪郭を出します。
また、石肌にも黒く汚れがたまってしまっているので、これも洗い落とします。
- 苔は全部取り除いてしまうのですか?
- 出口
- 苔を全部はがしてしまうと、それはそれで不自然になります。どの程度はがすかは、つくばいの形や周辺環境との折り合いを見ながら決めます。
- 出口
- 例えば、このつくばいは、実際には見えているより大きいのですが、地面の高さなど周辺環境を見るに、本来見せたかったのはこのラインまでだと思われます。ですので、苔はこれ以上はがさないほうがバランスがよいでしょう。
- また、今の時期は苔が黒ずんできてしまっているのでほとんどはがしてしまいましたが、新芽の時期などであれば青々と美しい色合いをみせてくれるので、もう少し残すかもしれません。
- お手入れにはどんな道具を使うのですか。
- 出口
- 今回使っているのはタワシとワイヤーブラシ2種類です。
タワシのほうが柔らかいので、まず全体をタワシで磨きます。その後、より繊維の固いワイヤーブラシでしつこい汚れを落とします。範囲が広い汚れは小判型、細かいところは軸付きと使い分けます。
- 出口
- つくばいの手水鉢部分とあわせて、海(役石に囲まれた、一段低い部分)も掃除します。落ち葉や細かな土埃などがたまると目が詰まって排水しにくくなるため、念入りに取り除きます。
そうしてお手入れの終わったつくばいを改めて見比べると、見違えるほど印象が変わったことがわかります。
添景物を庭になじませることと、美しく保つこと。
このふたつの両立は、実は庭師のこまやかなお手入れによって実現されているのです。