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無鄰菴の葉むしり:適期を見極める基準

    無鄰菴の主木であり、母屋からの中景を占めるアカマツ

晩秋・初冬の庭園といえば、何をイメージしますか?

恐らく多くの人はモミジなどの紅葉や落葉の景色を思い浮かべるでしょう。

しかし、庭師の視点から庭園を見てみると、この時期を特徴づけるもう一つの景色もお楽しみいただけます。それは松の姿をすっきりさせるために古葉を手作業でむしり取る「葉むしり」という作業です。

葉むしりを行う理由としては、年末までに庭をきれいにし、正月をさっぱりした気持ちで迎えたいという日本の伝統に根差した理由もありますが、この作業はただ「年末までに」終わらせればよいというものではありません。必ずその木その木の個性を知ったうえで、葉むしりの適期を見極めなければならないのです。それを判断する庭師の視点をより深く理解するため、無鄰菴の主木であるアカマツの葉むしりを2023年12月12日に取材しました。

松の木1本ずつの個性にもよりますが、無鄰菴のアカマツの葉は秋になると黄色くなり、自ら落葉しやすくなる特質があります。そのため、葉っぱがもっとも落葉しやすい頃にこの作業を行うことで、作業の効率を格段に上げることができます。無鄰菴の担当庭師である出口健太さんによると、松の様子を観察することによって、葉むしりは「この週にやったほうがいい」というところまで判断できるそうです。

アカマツの落葉

その見極めのポイントを出口さんは次のように説明します。「古葉が黄色くなり、濃さとしても今の段階で、かなり透けてきていることが分かります。そして、揺さぶるだけで落ちやすくなっていることを手触りで確認できます。」 

それでは、葉むしりの行い方はどうでしょうか。その流れを出口さんに実演してもらいました。

まず、遠目で松の全体像を把握し、どこをどのように調整すればよいかを確認します。それから成長が旺盛な部分に鋏を入れて、樹形を整えていきます。

枯れ枝はノコギリで切除し、その傷口もきれいにします。幹の樹皮がめくれかけているところは、めくり上げます。アカマツの幹や枝の赤い色をより鮮やかに見せるためです。

このようにして、このアカマツが本来持つ柔らかい枝ぶりや優美な赤い色を発揮させます。その上で、鋏で樹形を調整しながら古葉を手でむしっていきます。

無鄰菴の松は毎年このような手入れをしますが、この作業の目的は、ただ松をきれいな状態にすることだけではなく、その樹形を育てることです。年一回の作業とはいえ、果てしない時間を想定しているのです。「十年近く手を入れ続けているので、樹形がまとまってきている」と出口さんは説明します。

このように、葉むしりのタイミングを正しく見計らうことは庭の育成にとって大変重要なことです。しかし、このタイミングは、樹木の様子ばかりではなく、天候などの外的要因にも左右されます。取材を行った2023年12月12日は、あいにくの雨天でした。小降りではありましたが、出口さんはこの日にアカマツの葉むしりを行うことは適当でないと判断しました。「雨が降った後は作業しにくいですし、葉っぱが水分で落ちにくくなることもあります。乾いた後に行った方がきれいにできますし、安全です」と彼はいいます。このため、この樹木の葉むしりは後日に行われることになりました。

葉むしりを行うには、総合的な判断力が必要です。その作業を行う前と行った後の様子を写真で比較すると、その効果をはっきりと確認できます。

         

作業後には黄色く色づいた古葉が一切なくなり、松の枝ぶりや幹がすっきりと、きれいに見えることが分かります。このように、四季折々、様々な表情を見せてくれる日本庭園には、庭師の確かな技術による手入れが欠かせません。だからこそ、庭師の仕事を知れば知るほど、庭園の移り変わりをより深く味わうことができます。

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