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無鄰菴の芝生管理:2024年初の芝刈り

無鄰菴を作庭するにあたって、施主の山縣有朋は苔ではなく、芝生を張ることを造園家の七代目小川治兵衛に指示しました。この事実は、「東山」の借景や琵琶湖疏水の水を引いた流れとともに、無鄰菴の芝生を庭園の本質的な価値のひとつであることを示しています。『京華林泉帖』(明治42・1909年)に掲載された無鄰菴の写真も、その野趣あふれる風景を伝えています。

『京華林泉帖』 (1909)

芝生が伸び、ところどころに野草が生え、まるで本物の野原のような空間を映し出されており、きれいに刈り込まれた芝生が整備された現代とは明らかに異なる感性が読み取れます。また、無鄰菴庭園内の石碑「恩賜稚松の記」には、「苔の青みたる中に名も知らぬ草の花の咲出たるもめずらし」との一文があり、無鄰菴の野花が一種の景物として愛でられていたことが伺えます。

そのため、無鄰菴の担当庭師である出口健太さんはなるべく芝を刈らずに、手で草を摘んで野花を残すことを心がけています。しかし、定期的な芝刈りも必要です。その管理方法については、2024年6月11日に行われた今年最初の芝刈りを取材しました。

まず、芝刈りの目的について尋ねてみました。「なるべく芝を短く抑えて石やサツキにメリハリが出るようにするが、野花を刈らないように気をつける」ことがポイントだそうです。取材を行った6月初旬はネジバナの開花を控えている時期でもあり、その環境を壊さないようにすることが大事です。

 芝刈を行った後に、ツツジと石にメリハリが出る

それでは、なぜ春の終わり頃に初めて芝刈りをするでしょうか。「なるべく芝刈りの回数を少なくしたいので、芝の伸びを見て限界まで伸ばす」と出口さんは説明します。しかし、そのタイミングはあくまで芝生の成長ぶりによるので、その頻度も年によって違うそうです。「一年に10回ぐらいやっていたこともあれば、5回で済んだこともある」とのこと。

また、来園者の邪魔にならないよう、なるべく芝刈りの作業を開場前までに終わらせることを目指しています。「今回は手引き除草をあらかじめやっていたので、芝刈り自体は早くすませることができた」と出口さんは言います。このように、機械を使用する場合でも手作業の除草も実施することでなるべく機械を使用する範囲を狭くするよう心がけています。

さて、芝刈りを行うための刈払機を紹介しましょう。金属製の刃ではなく、ナイロン製のカッターを装備しているので、芝を「切る」というより、「叩ききる」というようなイメージで作業が進められます。

刈払機とナイロンカッター

石に当たると、カッターが段々と短く擦られて切れなくなるので、その都度交換しながら作業をする必要があります。「今日だけでも2、3回替えている」と出口さんは説明します。 

使っているうちにカッターがここまで消耗される。

ナイロンカッターを取り換える

また、芝生をブロワー(落葉等を掃除する際に使用する送風機)で掃除しているうちに、刈った草が流れにたまってきます。そのため、芝刈りと流れ掃除は必ずセットで行われるそうです。やはり、庭園管理は個別の作業で構成されているのではなく、すべてが計画的に進められているのです。

 刈った草をブロワーで掃除する

 流れに刈った草が溜まる

すべての作業が終わると、芝生の様子がここまでさっぱりした様子になります。

         5月12日                    6月12日

 

しかし、この場合でも、野花に気をつけながら管理を進めることで、芝生をきれいに整えながら、無鄰菴独特の自然観がちゃんと保たれているのです。よく見ると、そこにはネジバナの茎が確かに残されています。

野花を残した芝生管理

そして、2週間後には、これらのネジバナが可愛らしく開花していました。

6月23日 ネジバナの景色

このように、時々刻々と変化する無鄰菴の自然主義的な風景は、その本質的価値を見据えた計画的な管理方針の賜物なのです。

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