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年間を通じた手入れの調整:セキショウの草抜き

無鄰菴の日々のお手入れは、天候や植物の生育具合、周辺環境など様々な要因を考慮して、何をすべきかを当日に決めています。
しかしそれは、日々行き当たりばったりのお手入れをしているという意味ではありません。

たとえば、夏場の35度を超えるような気候の元では、高木にのぼっての大規模な剪定作業は庭師への負担が大きいのはもちろん、植物にもダメージとなります。
剪定される木はもちろん、その足元の苔なども強い日差しで焼かれて弱ってしまうことでしょう。
そのため、剪定作業はできるだけ涼しい時期に行えるよう、年間を通じて手入れ時期を調整しています。

松の芽摘みは、新芽がある程度伸び、かつまだ柔らかくて折りやすい時期を狙う必要があります。
短すぎるうちの芽摘みは樹形が乱れやすくなりますし、成長しすぎて固くなってしまうと芽が摘みにくく、間延びした形になるからです。
そしていつその時期が来るかは、その年の天候と、それに応じた植物の成長度合い次第なのです。

日々お庭の観察を通じ、現在だけではなく未来の状況を考慮して、柔軟にお手入れの優先順位を入れ替えることが庭園の育成管理には重要です。

この日のお手入れは、流掃除でした。
特に夏場は植物の繁茂スピードが速い季節です。
川底の砂の上を透明な水が光を反射しながら流れ落ちる、目にも涼しげな風景を維持しつづけるには、普段にも増してまめな手入れが重要となります。

繁茂した藻や浮草、ヘドロ、落ち葉といったゴミを念入りに掃除したあと、この日はセキショウの整理も行いました。
セキショウとは、広い流れの中、浮島のようにまとまって生えている、水辺を好む植物です。
菖蒲(ショウブ)に似た見た目で岩場に生えることからその名がつけられたとされていますが、菖蒲とは異なり、花よりも葉の緑を楽しむ植物です。

手入れ前のセキショウの茂み。弟切草の生えた護岸石と接続しかけている

まとまりの輪郭がぼやけていると乱れて見えるので、流れとの境目が際立つよう、はみ出て繁茂している部分はセキショウであっても取り除きます。
特に、岸辺に近い部分はセキショウのまとまりと岸とが接続してしまうと流れそのものが狭まって見えてしまい、見目がよくないため、丁寧に整えます。

つぼみのふくらんだ弟切草

また、他の植物が生えていると乱れて見えるので、手引き除草。
しかしここでも山縣の愛した野花の景をつくるため、今まさにつぼみがふくらみつつある弟切草はあえて残します。

弟切草は近くの護岸石にも生えていました。
護岸石が完全に苔でおおわれてしまうのは望ましくありませんが、完全に苔をとりきってしまうのも不自然です。
この石はいちど苔でおおわれてしまったため、苔をはがして地肌が見えるようにしたそうなのですが、あえて残した部分から、種が残っていた弟切草が生えてきたとのこと。

お手入れ後。セキショウの茂みがすっきりとまとまっている

全体をみながらバランスよく整えると、それだけでかなり違う印象に。
こうした日々のこまめなお手入れが無鄰菴の風景をつくっています。

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