無鄰菴の母屋のすぐ南には大きなクスノキがあります。
洋館のあたりから庭園や東山を望む時には必ず目に入るシンボル的な大木で、施主である山縣有朋存命時から植えられていました。
このクスノキの足元には、絨毯のように同心円状にヤブコウジが生えています。色鮮やかなヤブコウジの緑の絨毯は、どっしりとしたクスノキの幹を引き立てる存在。秋から冬にかけては、かわいらしい赤い実をつけます。このヤブコウジを良い状態で保つための主なお手入れが落ち葉掃除です。
出口 このヤブコウジは、他に特段手入れというほどの手をかけてはいないのですが、落ち葉が溜まりすぎると蒸れて弱ってしまうので、溜まりすぎないうちに手作業で取り除きます。熊手を使うと引っかかって傷めてしまいますし、ブロワーでの掃除も試してみたのですが、密に茂った足元に絡まっている落ち葉は払いきれません。試行錯誤の結果、手作業が最も良いという結論に至っています。
狭い範囲を手作業で丁寧に掃除すると、小ぶりの箕(ちり取り)いっぱいに落ち葉が集まります。
出口 落ち葉を取り除くことで風通しを良くし、ヤブコウジの間にところどころ生えている苔にも陽射しが届きます。落ち葉が完全にない方が良いというわけでもなさそうなので、多すぎる分を適宜取り除いています。掃除をして、落ち葉が取り除かれるとすっきりします。この場所は母屋から近く、多くの人の目が届きやすい場所であることから、きれいに保つことを心がけています。これからの時期はヤブコウジの実が色づいて目を引くようになるので、その前に全体をきれいにしておく狙いがあります。無鄰菴には他にも赤い実がありますが、実が色づいてくると季節感を感じられます。
赤い実のなる常緑植物には縁起物が多く、ヤブコウジは「十両」とも呼ばれます。他にもお正月の装花に使われることで有名なセンリョウ、マンリョウと、「一両」とも呼ばれるアリドオシも、全てクスノキの足元付近にあります。
無鄰菴では、これらのほかにもウメモドキやナンテンも冬が近づくと赤い実をつけます。
出口 常緑樹のクスノキの落ち葉が多いのは3月~4月頃です。ただ、10月初旬でもパラパラと落ちてきていますし、季節によって量に差はありますが年中落葉しています。しっかり全体を掃除すると、2 人で 1 日かかる作業です。他に優先度の高い仕事がある時期はなかなか手をかけられないこともありますが、無鄰菴のシンボル的な景でもあるので、きれいに保つように心がけています。
秋から冬にかけて、ヤブコウジの実は鮮やかな赤に色づきます。実は、その生き生きとした姿は陰の努力によって支えられているのです。
冬場に無鄰菴を訪れる際は、ヤブコウジの陰に隠れた庭師の細部への気配りにも思いをはせて景色を眺めてみてください。
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