無鄰菴に「モミの木を植えよ」と七代目小川治兵衛に命じた山縣有朋。モミをはじめ、当時植えた樹木は120余年の時を経て大きく育ち、無鄰菴の景色をかたちづくっています。
一方、樹木が生育することで、台風時の倒木・湿気の上昇などの危害が母屋へ及ぶ懸念が生まれてきました。文化財保存・お客様の安全確保の観点から伐採が必須なのですが、これには所有者である京都市と所轄の文化庁の許可が必要となります。というのも、無鄰菴は国指定名勝の文化財となっており、樹木の伐採は「現状変更」とみなされるためです(日常の育成管理の範囲内でおこなわれる剪定は、これに限りません)。3ヶ月以上にわたる京都市・文化庁とのやりとりを経て、12月10日に伐採作業をおこなうことになりました。
今回伐採対象となるのは、母屋のすぐ東側にあるアオギリです。
伐採対象の樹木は、「現状変更」申請のなかで厳しく決められています。伐採木のリストと位置図で入念に確認をしてから、実際の作業に移ります。
アオギリの隣にあるモミに梯子をかけて登り、上から少しずつチェンソーで切り落としていきます。
「樹木の伐採」という文字だけをみると、根元から一度に切り倒すようなイメージを持たれる方もいるかと思います。ただ、そうしてしまうと倒れた樹木が庭園の石組みを壊したり、築山をえぐってしまう可能性があります。上から40cmほどの長さの丸太状に徐々に切り落とし、ロープをかけ二人がかりでゆっくりと下ろすことで、庭園を傷つけずに伐採でき、搬出する際も持ち出しやすくなります。また、落ちた枝で庭園を傷つけないための対策として、地面には養生シートの上に毛布と布団を重ねて敷いて作業をしています。
アオギリ伐採ののち、隣にあるモミの剪定作業に移ります。体の重みが乗っても折れない枝を見極めながら、梯子をかけて登っていきます。そこから手際よくハサミやノコギリで枝を落としていく様は、まさに職人技。「高所での作業は、緊張感をもっておこなっています」と無鄰菴担当庭師の出口さんは言います。
途中で何度か木から下り、遠目から樹形を確認しながら作業を進めます。樹木をより美しく見せるため一本一本の枝振りがはっきりとわかるように、かつ庭園全体が一体感のある景色を構成するように、樹形を整えてゆきます。伐採・剪定後の写真を見ると、作業前の写真との違いは一目瞭然です。
またこの日は無鄰菴を終日閉場としましたので、サービススタッフは同時に母屋の大掃除をおこないました。
来る新年に向け、お客様に安心して美しいお庭を楽しんでいただけるよう、スタッフ一同準備をしてお待ち申し上げております。
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