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カタは自由をくれる。
そしていずれ失うもの。
その先にある
自分だけのスタイル。

さらさら通信MINI 2019年 6-7月号

無鄰菴で約2年にわたり、能楽の講座を担当する若き金剛流シテ方能楽師、宇髙竜成さんにインタビュー。
ダイナミックな能の世界には、
充実した日常を生きるヒントがたくさん。

Q. お能のカタって身につけるの大変ですよね?

はい、10代の頃はとても大変でした。心身ともに変わり続けているので。しかも自分は舞の順番を覚えるのが苦手で、若い時に人前で失敗をあらわにされてきびしく叱られる!これはキツイし傷つきます。でも、そこで発想の転換ができました。叱られて、自分に非がないなら傷つかないはずなんです。本当に非がないと思うなら、言い返せるはず。言い返せないということは、カタが身についていないんだと、事実を受けれました。そうしたら「なぜできない?」という疑問が湧いてきました。そこからひたすら稽古しました。

Q. お稽古の方法って?

師匠によってそれぞれ違います。お能はカタはあるけどメソッド(決まった習得方法)がないんです。自分の場合は、師匠の全体の流れを一度見て、それを模写する方法でした。できていないことを受け入れてからは、見てすぐ模写することをやめて、師匠に一回流れを見せていただいたら「ちょっと時間をください」と提案して、頭の中で動きのイメージをリピートする時間を持ちました。そこで、どうしても空白の部分ができるのですが、それを再度動きながら自分の身体で埋めるようにしました。

Q. カタの反復の先には何が?

カタって本当の自分に出会うための手段の一つなんです。カタを身につけると個性が消えがちだと思われるのですが、実はカタがないと自由になれない。はっきりと他のものが見えるようになります。ファッションに例えるとプレタポルテではなく、オートクチュール。自分の体にぴったり合ったものでないとカタとは言えない。ひたすら師匠の動きを模写して、流れを自分の身体に入れ込んで、を反復する。そうするとある時、師匠と自分は何かが決定的に違うことに気がつきます。そこから「観察」をする。次にトライアンドエラーの繰り返し。

Q. カタの習得方法は自分で工夫するのですね。

ええ。最近はメソッドがないと行き詰ってしまう人が多いのですが、むしろそれはチャンスだと思ってほしいです。学ぶ過程で放置されることは、大きな副産物がついてくる場合も多いのです。つまり「観察」をベースに学ぶことになりますが、このプロセスで、他者の経験を自分の経験にする方法を、自分なりに手に入れました。これは舞台の上で他者を「演じる」という仕事を一生していく上で、とても大きなリソースになっています。そして他の仕事にも必要なプロセスではないでしょうか。

Q. カタがくれた自由とは?

一旦得たものも常に変わり続けていて、この先失われていくだろうし、自分と向き合って毎日カタを得続ける、というスタンスみたいなものがあります。何れにせよある時点でのカタが自分の側にあることによって、アウトプットの仕方を考えることができます。それを実際に使って、舞台の上にいる時が一番自由です。

これぞ、スタイル。
次の能講座は6月5日(水) 19時から。35歳以下ヤング割引有。
詳しくはウェブで。このコーナーまだ続きます。次回もお楽しみに!

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